いまどき、こんな祭りが残っているのは、感動的だ。
なにしろ、生身の女性を「ヒヒ」のいけにえに捧げるというのだから。
伝説は、司馬遼太郎の小説にもなっている。
かつてこの地は、水害や悪疫に悩まされたため、人々は一人の女性を神のいけにえに捧げて、怒りをなだめようとしていた。
そこへ、一人の武士が通りかかった。
村人の話を聞いて不審に思った彼は、
「今度は俺がいけにえになる」
と宣言して神社に運ばれていった。
真夜中。
神社からすさまじい叫び声と格闘の音がする。
驚いた村人たちが神社に駆けつけると、そこには血痕が点々と続いていた。
そして一匹の「ヒヒ」が、武士に組み敷かれ、今にもとどめを刺されようとしていた……。
そう、あたりを荒らしていた「神」とは、実はヒヒだったのである。
今の祭りは、完全に様式化されている。
小さな女の子が着飾って神社に赴き、神官が祝詞を唱えるのだ。
親たちも一夜官女に選ばれた自分の娘を誇りにしているように見える。
今では一滴の血も流れない祭りだが、不思議なほど女性の観客が多い。
普通の祭りの数倍はいる女性たちが、熱心に写真を撮り、ノートにペンを走らせているのだ。
この悲劇的な祭りに、なにか女性の奥深いものに訴えかけるものがあるのだろうか、僕はそんなことを考えていた。