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乞食の適材適所

 

 

プノンペンのトゥールスレン博物館といえば、ポル・ポト派の残虐行為をこれでもとしつこく集めたことでマニアにも人気の場所だが、今日はそんな話をしにきたんじゃない。問題は、ここにたむろしている乞食のことである。

 世界中乞食は数あれど、この博物館の前の乞食ほど、「適材適所」という観念を心得ている奴らはおるまい。人は博物館に入る。そこにはポル・ポト派がおこなったとされる、舌を抜き頭をかち割り首を絞め電気ショックを与え棒で殴り殺すといった、バラエティに富んだ拷問群が延々と繰り広げられていて、うんざりしながら外に逃げ出すと、そこにはポル・ポト派が埋めたとされる地雷で足を吹っ飛ばされた乞食がしっかりと待ち受けているのだ。参観者は当然のごとく涙にむせび、大量のチップを思わずあげてしまう、という合理的なシステムになっている。                                              

 ……というはずだったが、実際には誰ひとりお恵みしている者はなかった。そこには多くの白人旅行者がバスで乗り付けていたのだが、奴らは乞食をまったく無視して通り過ぎようとしていた。ああ、なんという非情な世の中だろうか……と嘆きながらも、僕も一緒になって逃げようとしていた。こんなところで捕まってはたまらない。                                   

 だが、捕まってしまった。どうやら、人間の誠実さというのは、顔から隠せないものらしい。乞食は僕に金を要求する。僕はうなづいて、ポケットから500リエル札(約20円)を取り出した。その時、周囲の人々の間から、「OЖЪЮЩЙφ!」というどよめきが上がった。実はカンボジアでは乞食のバクシーシは100リエルが相場で、500リエルは大盤振る舞いなのである。僕はただ単にその時100リエル札を持ってなかったというだけの話なのだが、乞食は僕に好意的に解釈してくれたようだ。写真も撮らせてくれ、握手して別れた。そして僕らは、別れ間際にこう声をかけあったのだ。信じてはもらえないかもしれないが、それは真実の言葉だった──

「グッバイ・フレンド!」

(リキシャ 2001年5月号)